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最高裁判所第二小法廷 昭和39年(オ)626号 判決 1967年1月20日

上告人

鈴木英雄

上告人

三大精器株式会社

右代表者

鈴木英雄

上告人

荒川常一

被上告人

片岡彦一郎

右訴訟代理人

高須宏夫

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人金子栄次郎名義の上告理由一について。

所論の点に関する原判決の事実認定は、その挙示の証拠により肯認できるから、原判決に所論の違法はない。所論は原審の専権に属する証拠の採否、事実の認定を非難することに帰するから、採用できない。

同二(イ)について。

原判決は、第一審判決添付目録第一および第二建物の明渡義務履行遅延もしくは右不法占有による損害金として、上告人鈴木英雄および同三大精器株式会社は被上告人に対し昭和三〇年七月九日以降明渡ずみまでそれぞれ一カ月四、〇〇〇円の割合による金員を支払うべきことを命ずるものであるが、昭和三〇年六月当時における右建物の賃料は一カ月四、〇〇〇円であつたことは、原判決引用の第一審判決の確定するところである。所論は、右建物は当時台風による損傷を受け、その使用価値が減少したのみならず、その修理期間はこれを使用できない筋合であるから、被上告人が右建物を使用収益しえなかつたことによる損害額は、右原判決認容金額より少額となる筈である旨主張するが、原判決の確定するところによれば、近年の不動産の需給状況に照せば、前記の事実があつても、原判決時(昭和三九年二月一五日)より少なくとも六、七年前からは、被上告人が右建物を他に賃貸することによる収益は、一カ月四、〇〇〇円を上廻つていたというのであるから、原判決が支払を命じた前記金額は、その総額において被上告人の受けた損害額を下廻るものと解せられる。されば、原判決に所論の違法がなく、論旨は採用できない。

同二(ロ)について。

被上告人は、上告人鈴木が本件建物を明渡す際所論必要費の償還を行なえば足りること原判決引用の第一審判決の判示するとおりであるところ、上告人鈴木の建物明渡しが原審口頭弁論終結時現在において未だ実行されず、その履行の提供もなされていないというのであるから、被上告人は当時上告人鈴木に対し右必要費償還をなすべき時期が到来していなかつたものといわなければならない。しからば、右必要費償還請求権をもつてする所論の相殺を認容しなかつた原判決は相当であるから、論旨は採用できない。

同二(ハ)について。

建物賃貸契約が原判決引用の第一審判決のように、解除によつて終了し、賃借人が右建物を不法に占有中右建物につき修繕費を支出したとしても、賃借人は、右修繕費償還請求権をもつて右建物につき留置権を行使することができないものと解すべきである(大審院大正一〇年(オ)第七九九号同年一二月二三日判決、民録二七輯二一七五頁参照)。原判決に所論の違法がなく、論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)

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